『綱渡りの男』モーディカイ・ガースティン

  • 2013.05.03 Friday
  • 22:41
【2004年コルデコット賞受賞作品】

ワールドトレードセンターと言えば、9・11の事件をどうしても思い出してしまいますが、過去にはこんな芸術的な出来事もあったんです。



実在の大道芸人フィリップ・プティがツインタワーを見て思ったこと。ロープを張ってその上を歩いてみたい!

思い立ったら即実行。でも、冷静に考えると、警察やタワーのオーナーが許可を出すはずはありません。ではそこで彼は諦めてしまうのでしょうか?いえいえ、入念に計画をして実行です。

当時、タワーは未完成。思いついたのは、建設労働者の格好で何食わぬ顔で入ってしまうこと。200キロもあるワイヤーも建設資材のように運んでしまえば問題ありません。

無事に屋上まで来たら、今度は向かいのタワーで待ち構えていた友人達と、ワイヤーを張る作業です。重量のある鋼鉄の綱だから、張るのも大仕事。太いように思えるけれど、実際は直径2cmというから、驚きです。

張り終えたころはもう夜明け。歴史的な出来事が起こる1974年8月7日の朝です。そして8m半もある棒を持って綱渡りを始めるプティ。

400mの高さを歩く彼の姿は、とても自由で幸せそう。緊張感が漂ってしかるべきなのに、そうは感じさせない何かがある感じ。きっと本人が心から楽しんで挑戦しているからなのでしょうね。

警察も駆けつけて、外野は大騒ぎですが、プティは意に介さず。1時間ほどのパフォーマンスの後、ようやく満足して下り立ちます。

一旦は警察に御用となってしまいますが、裁判所の寛容な判決で、今後は公園で皆を楽しませることになったプティ。

後に「MAN ON WIRE」というタイトルでドキュメンタリー映画となっていますが、この絵本も当時の報道資料や彼の自伝を元に描かれた絵本なので、臨場感はたっぷり。

ビルの高さや遠くに見える湾岸線では、絵本ならではの遠近感が楽しめます。

読後感がさわさかに感じるのは、偉業を達成しようというのとはちょっと違う、純粋にやってみたかった、挑戦してみたかったという気持ちが伝わってくるからかもしれません。

*『綱渡りの男』
モーディカイ・ガースティン(作) 川本 三郎(訳)
小峰書店(2005年刊行)

『月夜のみみずく』ジェイン・ヨーレン(詩)

  • 2013.02.16 Saturday
  • 22:53
【1988年コルデコット賞受賞作品】

今日も風が強く寒い日でしたね。寒いと一歩も家から出たくなくなりますが、もし、それ以上にわくわくすることがあれば、寒さなんて平気かも。今回の絵本は、そんなとっておきの出来事がテーマです。



冬の夜に、女の子は、お父さんとみみずく探しに出かけます。ずっとずっと待っていたこの日。すごく寒いに違いないけれど、それ以上に楽しみにしていた日です。

お父さんについて行きながら、女の子は饒舌です。でもそれは心の中での独り言。静かにしていないとみみずくに気づかれてしまうから、しゃべらず黙々と、お父さんについて行きます。

時々立ち止まって、様子を窺いながら進んで行く二人。「ほうーほう」と呼びかけを繰り返すと、やまびこのように返ってきた返事。気配がして、ぱっと灯りをむけると木にとまろうとするみみずくが・・・。

目があった一瞬が、何分もの長い時間に感じる場面を過ぎ、女の子とお父さんは静かに家に戻っていきます。

絵の風景から伝わる夜の静けさと好対照な女の子の心の中の独り言。とてもどきどきしている様子が伝わってきます。一瞬一瞬が特別で、見るもの感じるもの全てを話している感じなんですが、全く冗長に感じないのです。

どうしてかなと思いましたら、リズミカルな文章に秘密が。この本文は、ストーリーにはなっていますが、詩として書かれているんです。日本語版も、そのリズムを損なわないよう訳されていて、充分に楽しめました。

大人になってからでも、いろいろな経験はできるけれど、子供の時に体験したことのほうが、強烈に覚えていると思いませんか?体いっぱいで受けたわくわくを、ぎゅっと濃縮した絵本だと思いました。

こちらの絵本(中古)は、お店でも扱っています。こちらからどうぞ。
※申し訳ございません。売り切れました。

*『月夜のみみずく』
ジェイン・ヨーレン(詩) ジョン・ショーエンヘール(画)
くどう なおこ(訳)
偕成社(1989年刊行)

『きょうは よいてんき』ナニー・ホグロギアン

  • 2013.02.03 Sunday
  • 18:50
【1972年コルデコット賞受賞作品】

昨日は2月だというのに、とても暖かい日でしたね。そんなお天気のよい日に出かけたきつねの散々な一日・・・と言ってしまうとなんですが、最後はハッピーエンドの絵本を紹介します。



森の向こうまで散歩に出かけたきつねは、のどがもうからから。ふと見ると、ミルクが詰まったつぼがすぐそこに・・・。このミルク、実はたきぎ拾いをしていた、おばあさんのもの。きつねが飲んでしまったことに気づいた頃には、つぼはもうからっぽ。

おばあさんはかんかんに怒って、きつねの大事なしっぽを切り取ってしまいます。ミルクを返してくれたら、しっぽは返してあげよう、という約束です。

しっぽが無ければ、仲間から馬鹿にされてしまうから、きつねも必死です。泣く泣く、牛のところに行き、ミルクを分けてもらいにいきます。でも、牛はただではミルクを分けてくれません。交換条件はおいしい草です。

今度は野原に行って、草をもらおうとしますが、今度もただではもらえません。「水を持ってきてくれたら」と野原は言います。

さらに川に行って、娘さんにあって、商人にあって・・・と、まだまだ続くお願いの旅。どこに行っても交換条件を出されてしまって、きつねはもう泣きそう。

ここまで来ると、本当にかわいそうになってしまうのですが、最後には優しい粉挽きのおじいさんが、頼みを聞いてくれます。きつねは喜んで、順繰りに頼まれたものを交換していき、しっぽも無事元通り。

アルメニアの民話が元になっているというこのお話、主題となるのは、世の中の厳しさなのか、その中にある人の優しさなのか、はたまた文化の違いなのか、ちょっと悩んでしまいます。

でも一番気に入っているのは、正直言うと、ナニー・ホグロギアンの絵。なかなか出せない独特な色使いは必見です。コルデコット賞を二度受賞しているのも頷けます。

別で紹介した『リベックじいさんのなしの木』は、版画で表現されていて、こちらも素敵です。機会があったら、両方読んでみてください。

*『きょうは よいてんき』
ナニー・ホグロギアン(作) あしの あき(訳)
ほるぷ出版(1976年刊行)

*『ONE FINE DAY』Nonny Hogrogian

『雪の写真家 ベントレー』ほか メアリー・アゼアリアン(画)

  • 2013.01.29 Tuesday
  • 20:18
【1999年コルデコット賞受賞作品】

窓から見える畑が白かった昨日の朝。この間の雪がまだ残ってるのかしら、なんてのんきに思っていたら、夜中に降っていたのですね。
雪の絵本といえば、先日紹介した『ゆきのひ』が有名な絵本ですが、こんな絵本もあるんです。



子供の時に雪に魅せられてから、生涯を雪の研究に費やしたウィルソン・A・ベントレーの伝記絵本。雪の結晶の写真撮影に成功したのもこの人です。

ベントレーは、顕微鏡で観察を続けるうちに、結晶には6つの枝があることを発見します。全て形が違うのも、温度や湿度に関係があるからだと考えました。

当時はとんでもなく高価だった顕微鏡付きカメラを、貯めておいたお金で買ってあげた両親もすごいですが、カメラ自体も、必要としている人のもとへ行くべき運命だったのでしょう。

撮影は試行錯誤の連続。撮影に成功してからも、毎回の撮影に手間隙がかかるのは変わりません。彼の功績が認められ、「雪の結晶」の本が出版されたのは、撮影を始めて50年も経ってから。まさに雪に捧げた一生。



どうしても雪の結晶の写真が見たくなって、図書館で探しましたら、素敵な写真絵本を発見!大きくはっきりした輪郭の結晶を楽しめる絵本です。

どんな人が撮ったのだろうと思ったら、物理学者で雪の結晶の研究をされた中谷宇吉郎博士に影響を受けた方でした。ベントレー氏さながら撮影に苦心されて、こうして作品を残してくださった方。

一方で、中谷博士自身も、ベントレー氏の「雪の結晶」の本を目にしたことが、研究のきっかけになったと、先の絵本で訳者が解説しています。

世代も国も超えて、研究がつながっていくのも興味深く、そんなにまで心を捉えてしまう雪って何なのだろう、と改めて思いました。

*『雪の写真家 ベントレー』
ジャクリーン・ブリッグス・マーティン(作)
メアリー・アゼアリアン(画) 千葉 茂樹(訳)
BL出版(1999年刊行)

*『きらきら』
谷川 俊太郎(文) 吉田 六郎(写真)
アリス館(2008年刊行)

『ゆきのひ』エズラ・ジャック・キーツ

  • 2013.01.14 Monday
  • 16:33
【1963年コルデコット賞受賞作品】

東京では初雪となった今日。無邪気に楽しめるのは、やっぱり子供の特権でしょうか。今日は言わずと知れた名作絵本の紹介です。



朝起きたら一面の雪。ご飯をたべたら、ピーターは赤いマントを着て、外に飛び出していきます。雪にできる足跡も、棒でつついて木から落ちる雪も、いつもは味わえないもの。

小高い場所からすべったり、ゆきだるまを作ってみたり。エンジェルも作ってみます。エンジェル作りとは、雪に仰向けに倒れて、その状態で両手を水平な状態で半円を描くように、上下に動かしてみます。起き上がると、その雪跡は羽のあるエンジェルみたいという、そんな感じです。

先日紹介した絵本『白い森のなかで』でも、「エンジェルをつくる」描写があるのですが、欧米では一般的なんでしょうかね?日本だったら、ゆきうさぎや、かまくらになるのかもしれませんが。

雪の絵本というと、真っ白な雪を想像しますが、この絵本では、雪は真っ白ではありません。コラージュをふんだんに使ったページは、色とりどり。雪もピンクやきいろっぽいところがある不思議な色合いです。それがまた、陽の光にあたる雪のきらきらした雰囲気が出ていて、とても素敵です。

写真では、洋書(英語版)にイギリスの国旗がついていますが、原書はアメリカです。図書館から借りてきましたら、イギリス版を購入されていたためか、ユニオンジャックのシールがついていました。気になる方もいると思ったので、念のため。



今日ではないですが、雪が降った日の実家での写真です。雪でおこじょらしきものを作り、テラスに置いてみました。雪を眺めているふうに見えますかね?エンジェル作りは無理だけど、このくらいは遊んでみたい、かな。

*『The Snowy Day』Ezra Jack Keats
*『ゆきのひ』
エズラ・ジャック・キーツ(作) 木島 始(訳)
(偕成社1969年刊行)

木島 始さんの他の作品紹介はこちら
「木」

『おはなし おはなし』ゲイル・E・ヘイリー

  • 2012.09.21 Friday
  • 14:51
【1971年コルデコット賞受賞作品】

日本の昔話の定番といえば「おじいさんとおばあさん」。アフリカ民話の定番は「クモ男アナンセ」なんです。



世界に一つもおはなしがなかった時。それは、空の王者ニヤメが箱にしまいこんでいたから。それならそいつを全部買い取ってやろう、とアナンセは、クモの糸で梯子をつくって空にのぼっていきます。

アナンセの頼み事をきく条件に、ニヤメが出した難題は、3つのものを手に入れてくること。それは、獰猛なヒョウとクマンバチ、いたずら好きな妖精。どれも手強いけれど知恵でなんなく手に入れてしまうアナンセ。

登場人物、道具、風景など、どれをとってもアフリカ色満載の絵本です。ところどころに出てくるアフリカの言葉もリズミカルで楽しく、版画絵も鮮やか。子供の時には、やや長めのストーリーであるのによく読んでいた記憶があります。

英語版は数年前に購入したのできれいですが、日本語版はもうぼろぼろ。
けれど気に入っているので、捨てられませんねぇ。

*『おはなし おはなし』
ゲイル・E・ヘイリー(作・画) あしの あき(訳)
ほるぷ出版(1978年刊行)

*『A STORY A STORY』
Gail E. Haley (published by Atheneum books in 1970)

『グランパ・グリーンの庭』レイン・スミス

  • 2012.08.16 Thursday
  • 20:20
【2012年コルデコット・オナー賞受賞作品】

派手な色を使っているわけでもないのに、ぱっと目を引くこの絵本は、庭師のおじいちゃんとひ孫の「ぼく」、そして庭が、主人公のお話。



様々な形に刈り込まれた庭の木は、おじいちゃんの人生そのもの。生まれたときのことも、戦争に行ったときのことも、結婚したときのことも全部植木になっています。
ひとつひとつを巡りながら、「ぼく」が、おじいちゃんの人生をたどっていく過程は、楽しみながらも、なんだかじわっとくるのです。

「おじいちゃんが忘れてしまっても、だいじょうぶ、庭がぜんぶ覚えているから。」というくだりは、いつまでも一緒にいられるわけじゃない、ということなんですよね。

同居していた祖母が亡くなり早10年。もっとたくさん話を聞いておけば良かった、と少しさみしくなった送り盆の夜でした。

*『グランパ・グリーンの庭』
レイン・スミス(作) 青山 南(訳)
BL出版(2012年刊行)

『ライオンとねずみ』ジェリー・ピンクニー(画)

  • 2012.06.23 Saturday
  • 12:45
【2010年コルデコット賞受賞作品】

久しぶりのブログ更新になってしまいましたが・・・。
今回は、「文字なし絵本」に注目したいと思います!
『ライオンとねずみ』は、イソップものがたりでもおなじみのおはなし。
ライオンが、捕まえたねずみを逃がしたことで、後で、ライオンがねずみに助けてもらう、という恩返しのような持ちつ持たれつのあの話です。



この絵本は、全くの文字なしではなく、鳴き声や、物音などは書かれています。
迫力のある絵に引き込まれて読んでいくと、この効果的な擬音語によって、より臨場感が出てきます。
2010年のコルデコット賞受賞もうなずける1冊。
一人で浸って読むのも良し、お子さんと話しながら読むのも良しの一冊です。

*『ライオンとねずみ』イソップものがたり
ジェリー・ピンクニー(作)
さくま ゆみこ(翻訳)

『ホンドとファビアン』ピーター・マッカーティ

  • 2012.06.08 Friday
  • 21:57
【2003年コルデコット・オナー賞受賞作品】

犬がホンドで、ネコがファビアン。
このふわっふわなタッチのイラストにやられてしまいました。即買いです。
どうやったら、こんなに繊細に描けるんでしょうね。



内容はいたってシンプル。それぞれの幸せな一日を描いたものですが、なんだかとても癒されます。
自宅では、ネコが飼えない状況なので、この絵本を読んで我慢です・・・。

*『ホンドとファビアン』
ピーター・マッカーティ(作・画)
江國 香織(訳)
岩崎書店(2003年刊行)

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